4-1-2 技術課
(1) 内部点検評価
技術課では組織内部の点検評価を行うために,技術課組織に関する疑問,待遇,業務,教官との関係,その他改善すべき点な どを技官全員に募り,技術課長が取りまとめた。
a) 技官の処遇に対する意見
技術支援体制の充実は,独創的研究の推進に不可欠な要因の一つである。このことは,平成10年度政府予算案において,「研 究支援体制等の整備」として236億円あまり,「施設の高度化,多様化の推進」として916億円あまりが計上されているように,国家 予算レベルでもその重要性が示されている。
技官の側でもこれまでに様々な課題に対して積極的に取り組んできた。例として, (1) 研究室や施設における研究支援業務の 充実, ( 2) IMS マシンにおける独創的な装置の開発, ( 3) 技術研究会における幅広い交流, ( 4) 技官研修制度,人事交流にお ける人事の活性化などが挙げられる。これらの取り組みはまだ始まったばかりのものもあるが,分子研が先駆的に実施し,IMSマ シンにおける特許の取得などの成果を上げると同時に他の研究機関や大学に広まっていった例は多い。
しかし,この一方で技官定員は度重なる定員削減を受けている。これは単なるマンパワーの減少に留まらず,上記の取り組み を制限し,技術の世代間継承を難しくし,ひいては技術支援体制にも影響を及ぼすことに繋がる。人がいなくては充実した制度の 実現や維持,発展が難しくなる。
また,分子研は創設以来20年を経過し,建物や設備の老朽化が表れている。しかし,設備の保守管理,更新の経費は削減され る傾向にあり,より高度な研究や実験を行おうとする場合,それに設備が対応しきれないこともある。
マンパワー減少の一対策として,研究支援推進員制度が定められ,分子研においても5名が着任している。いずれも熟練した 技術と豊富な知識で若手の指導をはじめとする様々な業務を担当している。しかし,研究支援体制の充実のためならば,その熟 練した技術や豊富な知識を持つ人物を,非常勤なる不安定な立場に置くのはどうか。むしろ高齢化時代における雇用形態のあ り方の一つとして,定年の延長や正式な再雇用を検討するべきである。
b) 技術課組織と研究支援体制に関する意見
技術課という技官組織が作られたことにより,一時的には技官の身分,給与に関わる待遇改善の効果は上がった。しかし長期 の展望にたつと,定員削減,高齢化,人事の流動等多くの課題が残されている。しかし,今いちばん大きな問題は,技術課という技 官組織を作ったことにより,研究支援体制が強化されたかということである。
現在技官は研究部門,付属研究施設に配属され,配属部署の教官の指示の下に業務を行っている。そこでは,技官は教官の 要求に答えるため,つねに高い技術を追及しなければならない。ここまでは,技術者として生き残るために,技官個人の責任とし て当然やるべきことである。しかし,技術課という組織が生かされるのは,部門,施設の垣根を取り外し,分子科学と言う高い観点 にたって,研究支援を行うときである。
技術課は今までいくつかの実績を上げた。ヘリウム液化機故障原因の究明,建物老朽化に対する新整備計画の資料作り。これ らは,部門,施設の垣根を越えたプロジェクトチームで対応した。そして高い成果を上げたと自負している。しかし,教官側からは 必ずしも高い評価を得ていない。ここには,教官側にも技官側にも,技術課と言う技官組織に対する認識が低いという問題がある。
技術課とは特定の部門,施設の技官をさすものではない。教官も技官も技術課は組織であるということを認識し,組織が機能す るように考えなければ,真の研究支援体制は作れない。個々の技官の技術を部門,施設の枠の中に閉じ込めてしまうのではなく, それらの技術をうまく結合し教官の要求に答えることが技術課の使命と考える。それができるのは,技術課と言う組織があるから である。また,教官の要求に答えるためには,技官の教育は非常に重要である。これも技術課という組織を生かすことにより,より大 きな効果が期待できる。
(2) 外部点検評価
2章で述べたように施設系技官の活性化は最重要課題である。そこで,現在技術課で行っている活性化を目的とした活動に 関して,他の大学共同利用機関あるいは大学等の技術職員から,それぞれの視点に立った評価を得る目的で,次のとおり討論 集会を開催した。
a) 大学に所属する技術職員の立場から,技術研究会の活動を通じて分子研技術課の果たしてきた役割について評価を受け ると共に,今後の課題について意見交換を行った。
会議名 技術職員討論会「技術研究会を通じて分子研技術課が果たしてきた役割と今後の課題」 開催日 平成 9年 10月 29日(水)∼ 30日(木)
所外出席者
阿部 紀一 東北大学科学計測研究所 千田 文雄 東北大学金属材料研究所 佐藤 寛次 秋田大学教育学部 久保 正雄 埼玉大学分析センター 原 律子 千葉大学分析センター 松井 義和 静岡大学工学部 押川 達夫 静岡大学工学部
勝野 広宣 静岡大学電子工学研究所 駒井 慎一 名古屋大学工学部 小澤 忠夫 名古屋工業大学工学部 橋谷 茂雄 福井大学工学部
山田 等 大阪大学産業科学研究所 石橋 武 大阪大学産業科学研究所 宮内伊津子 愛媛大学機器分析センター 藤高 仁 広島大学機器分析センター 稲田 勝博 長崎大学分析センター 分子研出席者
伊藤所長(挨拶)
酒井楠雄,加藤清則,松戸修,西本史雄,堀米利夫,永田正明,吉田久史,山中孝弥,酒井雅弘,野村幸代
<評価と今後の課題>
(1) 分子科学研究所技術研究会は昭和50年に機械工作関係の技術研究会として分子研と名古屋大学の間で始まった。その 後,低温,回路,計算機の各分科会が相次いで創設された。昭和57年より,高エネ研,名大プラズマ研(現核融合研),分子研の 3研究所で持ち回りにより開催されるようになった。分析分科会は,平成7年度の分子研技術研究会において,従来よりあった第5 分科会「装置技術分科会」に替わって発足した。分析分科会では,創設を機に独自でアンケート調査を行った。その結果,分析分 科会が創設されるまで,参加者のほとんどが技術研究会の存在を知らなかった。さらにこの分析関係の技術研究会を是非とも続 けて欲しい,という意見が100%であった。これは分析分科会が,大学の化学教室系技官等,これまでに技術発表を行うための的 確な分科会がなかった技術職員等に交流の場を提供するなど,高い評価を得たものと考えられる。
(2) 分子研で開かれた平成7年度技術研究会に参加したときにその場の盛り上がった雰囲気を消してはだめだと感じ,また私 の所属する大学周辺からの参加者には協力を得られそうであったので分散開催の一分科会を引き受けた。開催要項の立案か ら発送,さらに報告書の作成に至る一連の作業は,分子研技術課から参考資料の提供を受けて行った。分子研技術課に蓄積さ
れた開催に関するノウハウは,技術研究会が発展していく上で,非常に重要であり,高く評価されなければならない。
(3) 私が所属する大学において技術研究会を開催したときは,分子研技術研究会とは違い,予稿集の発送をやめた。本稿を先 に出してもらいそれ 1 本にしたことによって開催経費の軽減化を計った。分子研も含めて,大学共同利用機関の技術部(課)は,
大学が技術研究会を開催するにあたって,その資金が潤沢でないことを理解すべきだ。
(4) 分子研など大学共同利用機関の多くは技術職員が先進的に組織化され,非常に良く機能している。大学では学部長が技 術部長を兼務するなど,現実的な組織になっていない場合が多い。分子研技術課が技術研究会など,対外的な活動をされる場 合は,そのような事情も考慮してほしい。
(5) 3研究所持ち回りに加えて分散開催が定期的に行われる形態が定着しそうであるが,その場合には,分散して開催される 分科会をどこが統括するかということが非常に問題になる。分子研技術課は,開催機関の独自性を非常に重要視している点にお いて評価できるので,統括機関として的確と考えられる。
(6) 全国で開催されている技術研究会を,規約を制定して組織化する動きがあるようだが,これは予算取得など,技術研究会 を文部省に認知してもらうためだと思う。規約の制定も必要だと思うが,技術研究会の目的を今一度見直すことの方が先決だ。分 子研技術課は,新しい分科会の創設など,技術研究会の基本理念に沿った活性化に努力しており,時宜にあった牽引車としての 機能をさらに高めてほしい。
(7) 分子研は岡崎国立共同研究機構に属する研究所であることから,同機構に属する基生研及び生理研との交流も多いと考 えられる。基生研及び生理研の技術課も技術研究会を開催している。全国の技術研究会を組織化するにあたっては,岡崎機構 内での連絡調整等,分子研技術課が果たすべき役割が多いことを認識してほしい。
(8) 分子研技術研究会の開催時期は, 3 月など年度末であることが多い,この時期は関係学会の開催直前で,多忙な技術職 員が多い。技術研究会の開催にあたっては,大学共同利用機関の一方的な都合で開催日を決定するのではなく,大学の年中行 事なども考慮に入れてほしい。大学の特に化学教室系技官の立場を理解できるのは大学共同利用機関の中でも分子研だけと考 えられるのでその期待は大きい。
b) 大学共同利用機関に所属する技術職員の責任者の立場から,分子研が創設した技術研修及び技術研究会について評価 を受けると共に,今後の運営方針について意見交換を行った。
会議名 技官の技術研修及び技術研究会についての意見交換会 開催日 平成 9 年 12 月 5 日(金)
所外出席者
三国 晃 高エネルギー加速器研究機構技術部長 山崎 高エネルギー加速器研究機構技術部次長 村井 勝治 核融合科学研究所技術部長
小平 純一 核融合科学研究所技術課長
小林 行泰 国立天文台天文機器開発実験センター長 岡田 則夫 国立天文台技術係長
分子研出席者 伊藤所長(挨拶)
酒井楠雄,加藤清則,松戸修,西本史雄,堀米利夫,永田正明,吉田久史,山中孝弥,蓮本正美
<評価と今後の課題>
(1) 他の研究機関に先駆けて分子研技術課が大学あるいは大学共同利用機関から技官の技術研修を受け入れ,熟練した技 術の伝承,新しい技術の展開などにおいて,成果をあげており,分子研と同様な技術研修の確立に向けて努力している。分子研 の先駆的な活動によって,技術研修経費を容易に確保することができた点において,分子研技術課を賞賛すべきである。
(2) 技術研修に送り出す側は,その職員が長期に渡って不在になり,職務の一部が滞るなどの問題があるが,本人にとっての デメリットは少ない。これに対して,受け入れる方は,研修内容の立案などに時間を取られたり,研修が長期になると日常業務に支
障を来すことが予想される。このために,1人だけの非効率的な研修をさけたり,同様な技術分野の技官が研修の受け入れに携 わることによって,相互にメリットがあるように配慮すべきだ。
(3) 分子研技術課では,技術研修を他の機関に先駆けて共同技術開発へも発展させている。この新しい展開は評価すべきで あり,同様な共同技術開発に同調したい。
(4) 技術研修を各研究機関の内部処置で実施するのではなく,技術部(課)として,所長及び大学共同利用機関所長会議を通 じ,文部省に予算要求すべきである。そのためには本日参加の 4 研究機関が結束しなければならないと共に,分子研技術課は
技術研修の先導機関としての役割を果たす必要がある。
(5) 技術研修によって,他の研究機関にある設備を使って業務を推進することは有益であるが,では具体的に何ができるのか というと解らないことが多々ある。このことは逆の立場に立った場合,我々が研修を受け入れるにあたってどこをアピールしていい
のか分からないということになる。相互に技術交流できる分野をさらに具体的に理解すべく努力が必要だ。
( 6) この技術研修は,現在各地区毎に実施されている国立学校等教室系技術職員合同研修とは違った特色を出さなければ ならない。このためには技術研修経費の予算要求にも関連して,4研究機関が運営委員会を設置し協議すべきだ。また,技術分 野の相互理解など,ワーキンググループを組織することも必要だ。
(7) 技術研究会では,分子研,核融合研及び高エ研の持ち回り開催を主として,全国の大学及び大学共同利用機関から約300 名の参加を得て開催している。参加者の中にはこの持ち回り開催に違和感を感じている者がいる。分子研技術課は運営を統一 する努力が必要であると思う。
(8) 技術研究会の開催経費についても,各研究機関の内部処置ではなく,独自予算を要求したい。このために,規約等を制定 し,運営委員会を設置したい。分子研技術課も協力すべきだ。
(9) 技術研究会運営委員会の設置は,技術研究会の新しい展開に向けて,重要なことであるが,各研究機関や大学の独自性 も重視しなければならない。これに関して,岡崎研究機構において,分子研,基生研,生理研の各技術課が独自性を尊重しつつ,
相互に交流している点において,評価すべきであり,独自性を重視した技術研究会の運営に関して,分子研技術課の果たすべ き役割は大きい。
c) 交換人事による異動者の活動状況について評価を受けると共に,技術交流と関連した人事交流の有効性について意見交 換を行った。
会議名 人事交流成果報告会 開催日 平成 9年 10月 9 日(木) 所外出席者
増田忠志,石川秀蔵,鈴木和司,鈴井光一,小林和宏,松下幸司(名古屋大学理学部) 青山正樹(名古屋大学工学部)
中村永研,宇野宗則(北陸先端科学技術大学院大学) 分子研出席者
酒 井 楠 雄 ,加 藤 清 則 ,松 戸 修 ,西 本 史 雄 ,堀 米 利 夫 ,永 田 正 明 ,吉 田 久 史 ,山 中 孝 弥 ,蓮 本 正 美 ,鳥 居 龍 晴 ,水 谷 伸 雄 , 山崎潤一郎,矢野隆行,豊田朋範,近藤聖彦,近藤直範,林憲志
プログラム
13:30∼ 13:45 開会挨拶 分子研技術課長 酒井 楠雄 13:45∼ 14:15 講演(2 年目の経過報告) 名大理学部 鈴井 光一 14:15∼ 14:45 講演(人事交流を折り返して) 分子研技術課 鳥居 龍晴
「分子研での2年間と残り1年間について」
14:45∼ 15:15 講演(J A IS T 工作室便り'97) 北陸先端科学技術大学院大学 中村 永研
15:15∼ 15:45 座談会(人事交流と技術交流について)
<座談会における評価と今後の課題>
(1) 北陸先端科学技術大学院大学との間でも人事交流が行われ,IMS マシンを外部の技官と共同開発する可能性の検討 がされたことなど,分子研技術課はかなり活発に活動しているように思える。しかし,それらの成果が研究者から高い評価を 得るようにしなければならないと思う。
(2) 今までの人事交流は,本人の希望だけで行われたが,これからは,互いの組織のメリットも考えなければいけない。また, 成果をはっきり出さなければいけない。大きなことより小さなことから始めるべきではないか。
(3) 組織間で行われる人事交流は,視点が組織のメリットに集中する危険がある。人事交流の対象者個人が,技術の修得に 努力し,また先方にもよい影響を与えた貢献に対して,待遇面からの支援も必要である。
(4) 人事交流を行う場合,ベテランと新人との交換などで発生するお互いの利益関係や,都市手当などの待遇面など,多くの 問題を抱えていると思う。
( 5) 大学や研究機関によっては,ある年齢層に職員数が集中している場合があり,期間限定の人事交流から発展させた通 常の人事交流によって平均年齢の平滑化が計られれば,人事と技術の交流が促進される。
d) 総括
技術研究会は非常に意義ある会合であることに意見が一致している。規模が大きくなってきたので,開催の仕方,時期,場所に 関して意見調整をして,その規模に合った運営方式をとっていくことが必要であろう。
技術研修はまだスタートしたばかりで,共同研究開発といった技術の新しい展開につながる可能性がある点で歓迎されてい る。しかし,その成果,メリット,デメリットはもう少し実施してみないと,はっきり言えない面がある。
交換人事は更に件数が限られているので,一般的なことは言えないが,現在までに実施された件に関しては有効な点が多い と言える。このような活動が人事異動につながるようにすることが,今後の課題として非常に大事な視点であり,また一方で技術力
の評価と向上につながるものにしていくように常に注意することが大切であろう。
(3) 装置開発室の点検・評価
技術課の点検・評価の一環として,技官9人を擁する装置開発室の活動に対し研究者側から見たものと,技術課全体や装置開 発室内の活動に対して技官から見たもの,とに分けて実施した。研究者側から見たものの1つは,所内全員に開かれた懇談会の 記録で,テーマはIMSマシンを中心にしている。もう1つは,各系から選ばれている装置開発室運営委員の会合の記録で,ここで は,装置開発室の運営や活動の全てについて各系の研究者の意見を委員がまとめ,この会議で報告・討論するタイプのものであ る。技官から見たものは,各項目毎に装置開発室で討論した技官の多数意見であり,教官による修正は全くはいっていない。文責 者の名前を各項目毎に記していないのは,全文について装置開発室ミーティングにおいて全員が目をとおし,合意しているから である。
I)研究者側から
I-a)IMS マシン懇談会まとめ,およびその後の対応 日時:平成 9 年(1997年)6 月 3 日 13:30∼
出席者:(所長)伊藤,(技術課長)酒井,(分子構造)斎藤,森田,熊倉,加藤,(電子構造)松本,富永,(分子集団)藥師,宮島, 大石,(極端紫外光)宇理須,間瀬,(UV SOR )鎌田,木下,(装置開発室)北川,渡辺,浅香,堀米,水谷,鳥居,近藤,高松,吉 田,豊田,永田 (下線は技官,その他は教官)
高いレベルの独自技術を身につけるきっかけとなるという理由で,大多数の出席者はこの制度の目指すところには賛成の意向 であった。
改善すべき点として出された意見を列挙すると,(A )毎年テーマを選ぶ必要はない(いいアイデアはすぐに出るものではない), 毎年テーマを出さねばならぬことがプレッシャーになる,(B )研究者の当面の研究の一環で提案を出しがち(特別研究費でやれ るものも申請されていた),しかし一方で,将来技術ばかり強調するのはよくない,また,(C )最初に予算があって後からテーマを決 めるのはよくない(選定が甘くなる),(D )研究者(提案者)の関与が少ない,(E )技官の得意分野から外れたテーマの押しつけに なるとよくない,より本質的な問題として,(F )装置開発室からわき起こる技術開発になっていない,技官がみずからIMSマシンを やりたいのかが疑問という意見が出された。
これらに対する改善の提案を列挙する(先のアルファベットと対応する)。(a)大きいテーマで開発期間も長くする,しかし短期間 でほしいものもあるので,小規模,短期間のテーマは別に募集する,(b)IMSマシンの精神を徹底させる,地道な技術の蓄積を重 視する,(d,e)提案者は実際の開発にもっと深く関わるようにする,発案者と技官の共同提案として選定委員会に出す,研究系か ら協賛者(協力者)を広く集めるよう呼びかける,(f)技官がやりたいことを優先する,などである。
IMSマシン制度を始めた目的のひとつである「技官の意欲(意識)の維持と向上」については(F )の指摘どおり,全面的に成功 しているとはいえない。よい技術者を研究所内に育てることはオリジナルな実験をしていく上で非常に重要であり,そのための方
策を研究者が考えて行く責任があることを室長の北川が強調した。
その他に,この制度の運用にはおおらかさが必要,また,長い目で見て技術向上につながることが重要であるという意見が所 長より出された。
以上の提案および装置開発室運営委員会での合議を踏まえ,平成9年度(1997年度)のIMSマシン募集要項では,(1)選定基 準として「装置開発室技官と提案者との緊密な討議から生まれ出たものである」を付け加え,(2)提案者と技官が内容を協議した 結果を連名でIMSマシン選定委員会に提出することとし,さらに(3)採択された装置の提案者は,設計・製作・評価に積極的に参 加すること,(4)開発期間は特に限定しないが,数年にわたるときは1年ごとに計画を見直すことを明示することにした。
I-b)装置開発室運営委員会まとめ
○ 日時:平成 9 年 6 月 19 日 13:30∼ 16:00
○ 出席者:(分子構造 )熊倉,(電子構造)富永,( 分子 集団)宮島,(相関)細越,(反応動力)間瀬 ,(レーザー開発)大竹,
(UV S OR )田中,(錯体)藤田,(技術課長)酒井,(装置開発室)北川,渡辺,浅香,掘米
委員13名全員出席のもとに装置開発室から運営予算,IMSマシン,基盤技術育成について説明後,討論に入った。 1)IMSマシンについて
装置開発室から,今年度のIMSマシンは「研究者と技官の強い連携プレーを前提とする事」を公募要領に折り込みたいとの説 明があった。
研究系委員より「装置開発室が伸ばそうとしている技術を公表してもらった方が応募しやすい」との意見が出た。そして「この 伸ばそうとする技術には,強力なリーダーシップのとれる研究者が必要ではないか」との意見が出た。
また,「装置開発室で持っている独自技術をもっとアピールして,それを伸ばすようにしたら」との意見も出た。 2)基盤技術育成について
「技官全員が各人最低1件の専門技術を向上させる」ため,IMSマシンとは別に基盤技術育成プログラムを実施していて,「現 在は超高真空技術を基盤技術と考えて育成中」との説明が装置開発室よりあった。
委員より「基盤技術のテーマは日常業務の内容分析から決めるべきではないか」との意見が出た。これに対し装置開発室から
「テーマの選定は所内研究支援技術ニーズアンケートの結果を参考にした事,そして日常支援技術と将来技術とは性格が違う」 との回答があり納得された。
3)テクニカルサービスについて
委員より内製と外注の割合,そして外注に出す基準について質問が出た。これに対し装置開発室から,「外注比は約50%であ り,工作機械や技術がない場合か,内製では時間的に間に合わない場合に外注する」との回答があり納得された。
委員より「簡単な物を多数作る場合も内製してほしい」との希望が出た。これに対し装置開発室から,「そういう物は基本的には 外注で処理したいが,場合によるので誠意ある話し合いで対応する」との回答があった。
4)まとめ
装置開発室は研究者との信頼・協力関係に立ち,適切なテクニカルサービスを実施しつつ,IMSマシン,基盤技術育成を通じ 各技官が特長ある専門技術を身につけたハイレベルの技術者集団になる事を目指した活動方針をとることに全員が同意した。
II)技官側から II-a)技官研修
装置開発室では技術課技官研修制度がスタートして以来延べ7人の技官を受け入れてきた。それぞれの研修技官は名古屋 大学,東北大学,国立天文台,北陸先端科学技術大学院大学などに所属している。研修を受けた人達は年齢的に若い人が多く, 研修期間も1週間程度から2ヶ月間までと幅が広い。
この制度では定型のプログラムに従って研修をするのではなく,事前に話し合いを行い,研修計画を立てて研修者が希望する 技術的な経験が出来るように心がけた。よって研修者は自分にあった技術の体験ができ,研修を指導する側も基本的な技術の再 確認ができる機会となることもあった。しかし,その反面,日常的な業務に負担を感じることにもなる。これは研修時期が年度後期 に偏ったり,研修が重なるようなことになったことにも起因している。
一方,経験豊富な人員を研修制度を利用して招くケースもあった。これは研修者と指導する側が逆転し,装置開発室にいなが ら技術を取得できる利点があった。過去にこのような例は数少ないが,今後頻繁に行われるようになれば技官研修によるメリットは より大きいものになる。
研修は外に出ていく機会の少ない装置開発室の技官にとっては外部と交流できる好機であり,技術経験及び人間関係に幅を 持つことができる。また,現在の環境に新しい人が一時的ではあるが加わることにより,職場がリフレッシュされる効果もある。
研修制度が幅広く行われ,研修を受け入れるだけでなく研修を受けに外部に出ていける機会が多くなることが強く望まれる。 II-b)人事交流制度
教官や事務官は頻繁に人事交流(異動)が行われており,技官も徐々に行われてきているが,少ないのが現状である。それは, 事務官と比べると技官の専門分野は機関によって異なるため,双方の合意が難しいことにある。また,教官と比べると技官は仕事 のテーマを自分で決定することが困難な職種のためである。
期限付きの人事交流は,パーマネントの異動と比べ,実行しやすいことがあげられる。人事交流することで,交流先の技術を修 得し,互いに技術向上をめざす事が出来,且つ互いの部署がますます身近になる。人のつながりが広がることで技術開発を行う 上で良い肥やしになると考えられる。交流者当人はもとより,他の人にとっても異なった環境下で仕事をすることで,マンネリ化し がちな職場を見直し活性化する良い機会にもなる。
しかし,人事交流によって,これまで交流先の業務がスムーズに行われてきたことに支障をきたし,他の人に負担が増えたりす ることもある。また,人事交流者の経歴,年齢等からくるトラブルが起こることも考えられるため,双方の当事者を交えて事前に十分 な議論と了解が必要である。
II-c)技術研究会
装置開発室を中心に発足した技術研究会は,対象を機械工作から回路工作,低温技術,計算機技術と広げ,現在に至ってい る。
技官が発表や交流の場を持つことは業務に対する意欲を高めると同時に,人事交流や技官研修など,外部との交流が始まっ たとは言えまだまだ限定されている環境下において,技術情報の収集や外部の技術者と交流の機会としても重要かつ貴重であ る。また,幅広い年代や所属機関の技官が一堂に集うことにより,世代間の技術継承の場としての役割も担っている。
独創的研究の推進には技術開発が不可欠である。技術研究会は各人の技術向上に有意義であると共に,独創的研究の推進 に寄与することにも繋がる。
しかし規模が年々拡大するに伴う問題が浮上してきた。1つめはスケジュールの過密化,2つめは開催準備などの雑務の増大 とそれに反比例するようなマンパワーの減少,3つめは成果重視の傾向である。
参加者や発表者の数で成否を決めることは,技術研究会の本来の目的を歪曲する。開催する側が雑務に追われ,聴講や討論 が行えないのでは本末転倒である。経過や体験を重視し,発表者数を絞り込んで,質疑応答の充実を検討するべき段階にある。
また,旅費が限定された環境においては,特異な技術開発を公表する,あるいはそれを聴講することも所属機関によって限定 されてしまうこともありうるため,技官の旅費の充実が望まれる。
II-d)IMS マシン
IMSマシンは,新しい発想や技術を導入した研究装置を設計・製作する目的で,平成3年度から開始されている制度である。 公募により集められたIMSマシンのテーマは,提案者と装置開発室との間で検討を行なった後,選考委員会を経てその年度のテー マが決定される。公募という形をとることで,分子科学の研究の中で,現在どのような技術が求められているのかを知ることがで きる。それは,装置開発室のそれぞれのセクションで今後推し進めていくべき基盤技術の指針ともなる。また,採択されたテーマに 携わる技官にとっては,研究装置全体に深く関わってその内容を知ることができる。これにより得られる装置全体を設計する総合 的な技術力が,研究支援をする上で今後大いに役立つと思われる。
IMSマシンを推進する上では,新しい発想を含んだ装置作りを心がける必要があるが,それには,その装置のオリジナリティ性 に加え技官の技術向上という点にも考慮して選考すべきだと考える。採択されたテーマに基づいて,より良い研究装置を開発し ていくには,研究者のより大きな協力を求めると共に,新しい技術を如何にして取り入れて行くかを考えて行く必要がある。
II-e)基盤技術育成プログラム
近年,テクニカルサービスから開発的要素を含んだ装置の設計・試作の依頼業務が少なくなっており,且つ,依頼工作の納期 が短いため技術的向上に取り組む時間を十分取ることが出来なくなっている。
基盤技術育成プログラムは各構成員の担当分野において基礎となる技術の調査・開発・育成を行うことを目的としている。テ クニカルサービスから出てきた問題とそれにかかわった興味深い技術の中からと所内技術ニーズアンケート等を参考にし,体系 化した知識と技術の習得を目指して,2年前よりスタートした。本プログラムの長所は,
・装置開発室が主体で行うため,長期レンジで専門技術の蓄積ができる。
・テーマは分子科学に沿ったものであれば技官の興味と特技を考慮してできるため,専門分野を意欲的に修得できる。 今後,テクニカルサービスとバランスをとり積極的に将来技術の向上を目指すべきと考える。
II-f)テクニカルサービス
研究者からの依頼により実験に必要な装置や部品を製作するのがテクニカルサービスの役割であり,メカトロニクス部門,エレ クトロニクス部門,ニューマテリアル部門,それぞれの専任スタッフと外注業者の活用で月平均二十数件の依頼に対応している。
ここで必要とされることは,研究者の要求に対して,いかに早く正確に製品を作り提供するかであり,各スタッフは持てる技術と 設備により対応してきた。
現在のところ,その要求に対してほぼ満足のゆく製品が提供できているといえる。
しかしながら,現有の設備機器・測定器類には,老朽化したものも多く高まる要求に対応しきれない場合もでている。 また,依頼図面そのままを作っても,その製品が,実験の性能を満足させない物であったなら時間と労力の無駄でしかなく,実 験にマッチしたより良い製品を提供するためには,研究者との充分な話し合いが不可欠で,それに費やす時間を惜しんではなら ない。
このように設計から製作までの一貫した取り組みは,若手技官の技術向上にも役立ち,そこで生じた問題や興味深い技術は依 頼工作終了後も基盤技術育成プログラムとして取り組んでいる。研究者にもこの点の理解を求め,たとえ一個の部品であっても, その使い方,有用性等を含め研究者と技術者が共に実験装置を作り上げるのだという意識を持ち続けていきたい。
II-g)技術課プレゼンテーション
技術課プレゼンテーションは,研究会などで講演することの練習になり,その準備をする過程において,普段なら特に追求せず に済ませてしまうような知識や技術等を,あらためて見直す事が出来る。また,講演内容が規制されていないため,講演者が何処 で,どの様な事を行なっているかがわかるため,人と人との交流にも有効であると言える。
しかし,講演時間が一時間程度と長く設定されているため,その準備に費やす時間も相当必要になるため,講演者の負担も大 きいといえる。また業務内容の講演の場合,内容が専門的であるため,たとえ興味のある内容だとしても,長時間の講演は聴講者 にとっても負担となる場合がある。
今後これらの問題が改善されることを望む。
II-h)研究支援推進員
装置開発室の研究支援推進員の主な役割は,研究者に工作室の機械使用を許可すること,急用の依頼伝票を処理すること, 研究者と装置開発室の若手職員に加工方法などを指導することである。
ヤスリのかけ方や面のとり方,溶接作業,組立て作業などの熟練を必要とする作業に関しては,熟練者である研究支援推進員 が若手職員の指導をしている。この制度が施行されてから,工作室の機械を利用する研究者に機械の取り扱い方を説明するこ とや加工技術についてのアドバイスをすることなどが軽減されたため,従来の職員は作業に集中することができ,円滑に作業を 行うことが出来るようになった。また,研究者,装置開発室の若手職員にとって加工技術についてのアドバイスは非常に役立って いる。